3日目の朝。皆が大体眠りについている頃(とは言っても7時ごろである)、トイレと洗面をさっと済ませ、ガサガサとたくさんの荷物を背負って出発した。前日は降ったり止んだりの雨模様だったが、今日は降らないようで、ラッキーで埋め尽くしてレスト&ピースまでいけそうだ。ここから滋賀県の山奥へと向かう。滋賀県イコール琵琶湖という安直なイメージしか持っていない僕だが、今回はまたかなりマニアックなイメージを持つことになりそうな場所である。オーソドックスな滋賀のイメージは当分得ることはできなそうだ。
今日も今日とて、とにかく走る。カブに跨って進む。とりあえず琵琶湖のほとりあたりで休憩しようと心に決めてひた走った。本気を出せば平地では60km/hくらいでる僕の自慢のカブちゃん(法定速度は守りましょう)だが山道は結構しんどい。ギアを1にして登るような場所はマジで心配になる。めちゃくちゃ息切れしてるのに無理やり走らせているみたいな罪悪感を覚えるのだ。すげえ音するもん。ごめんね、頑張れと声をかけながら山道を進む。琵琶湖は横をチラッと通ったがなんか休憩する場所もよく見つけられなかったのですぐに離れてしまった。いや、あれもう見た目”湖”っていうより”海”だしまあ海はたくさん見たからいいかって。デカすぎて。そんなこんなで一回トイレ休憩でコンビニには寄ったものの、そのままズルズルと休憩せず山道を登り続けていると湧水スポットを発見。そこでありがたーくお水をいただく。ひんやりとした透き通る水は疲れをも洗い流してくれるような気がした。
この場所は清流が有名らしく、ペットボトルとプロテインシェイカーにもお水をいただいて山道を登ることにする。道路脇の崖下からはせせらぎが聞こえ、気温も心なしか涼しい。一応マップで現在地を確認するといつの間にかゴール地点のすぐそばまで来ていたようだ。お昼休憩取ろうと思ってたのにいいい!と少し気が滅入ったが、致し方なし。この先にはお店どころかコンビニすらなさそうなので、いくつか持参していたカップ麺を食べることにしよう。そう考えて目的の”山水人(ヤマウト)”まで走ることにした。
そこから少し登ると集落らしき場所に着いた。とても年季の入った崩れかけのお家もある。藁葺き屋根だ。人の気配に少し安心しつつ、なかなか秘境にあるんだなと驚いた。ここまで電車やらなんやらで来るつもりと言っていた昨日の二人は一体どうやって来るんだろうと疑問に思いつつ。バスか何か出てるんだろうか?謎だ。
集落からさらに山奥へと進み、人気がなくなってきたところで目的地に到着した。一体どんなイベントなのやら。なんの下調べもせず、ええいままよ!と流れに任せてきてしまったのだが、なかなかどうして面妖な場所であった。そしてどうやら宿泊(テント泊)含めて5000円かかるらしい。しまった。完全に参加費のことを聞きそびれていた。そりゃあ地元の祭りじゃないイベントなんだからかかるよな。冷やかしだけならタダかな〜なんて呆けていた自分を呪う。なんせ当時の僕、この旅は50000円くらいで頑張ろうかなと思っていたのである。結論から言うと倍くらいかかったのだけど。アホだった。1ヶ月の燃料代とフェリー代だけで半分以上なくなるし、冷静に考えれば無理難題だったのだが、こういう見積もりは結構甘々なのが僕だ。まあやったこともないことだし仕方ない。この先も思いやられるけど。
とまあ、参加費に少したじろいで、引き返そうかとも少し考えてすらいたのだが、なかなかに山奥まで来てしまったし、8時からほぼぶっ続けで6時間以上走ったのでガッツリ休憩したい気持ちもあったし、何より約束を反故にするわけにもいかず5000円をお支払いしたのだった。
到着して駐車場にバイクを置いて、テントを設営する。つもりだったのだが、テントがびしょ濡れだったのでまずは乾かす。林間のキャンプサイトだったので、2本の木に紐をくくりつけてテントを干した。そしてついでに古の物語よろしく川で洗濯をする。気持ちのいい場所だ。そうして一旦お洗濯物たちを干したあと、散歩をしてみる。最初は全体像を把握しておきたい。細部は後でもいいだろう。なんと言っても時間はたっぷりある。むしろ暇だ。祭りといってもこれ以上何かを買える余裕はないし。
なるほど、さもありなん、という雰囲気だ。現代アート感あふれるティピ。ここはライブの会場になるらしい。それにアースバッグハウス。ここも舞台的な感じになるようだ。出店もいくつか軒を連ねており(何売ってたかは忘れちゃった。スパイスカレーとかマッサージとかはあった気がする)、テントもかなりの数が張ってあり、賑わいを見せていた。子供達が川で遊んでいたり、上裸の男たちも結構いたり、民族っぽい服装や装飾品、だいたいみんなロン毛、など独特のヒッピーっぽい雰囲気を醸し出していた。なんというか、異世界転生初日みたいにちょっとドギマギした。異世界とまでは言わないが、先住民たちの村に迷い込んでしまったような感じである。まあ僕もそこそこロン毛だから大丈夫か。
ひとしきり散策を終えた後、ライブが始まるという時間までまだ少しあったので飯を食って寝た。テントを干してある場所の近くにレジャーシートを敷いてお湯を沸かしてカップ麺を食し、寝っ転がった。眠かった。なんかこういう場所は眠気を促進する作用が場に充満している気がする。俺だけなのかもしれないけれど、慣れない雰囲気というのは疲れるものだ。お昼寝シエスタナップから目を覚ますとライブがちょうど始まるところだった。ただ僕は眠すぎたのでそのまま横になってメロディを聴いた。僕の位置からでも十分にその歌声は聞こえた。美しい透き通る女性の声を子守唄にして、気づけば僕の意識はまどろみの中に溶けていった。
いつの間にか別の人が歌っていた。そのサイケデリックな音をバックミュージックにして、僕はテントを設営した。木々の中、川の近くということもあって、完璧には乾いていなかったけれど致し方ない。ポールを連結し、サクッとドーム上に吊り下げて今夜の寝床を完成させる。キャンプ場管理人で散々建てたテントと構造が近かったのでイージーイージーである。そしていよいよライブ会場へと足を踏み入れてみたのだった。
といってもテントから歩いて10秒ほどの場所の広場である。それに人もべらぼうに多いわけでもない。平日だし密にもならない感じだ。声を枯らしながら叫んでいる観客も一人いるが、例外的である。その人がなかなかに面白い。何事にも全力という感じでアーティストの方の問いかけにも喉の奥から声を絞りあげている。上裸ロン毛でノリノリに踊っている彼はむしろアーティストより目立っていた。なんとなくリズムに乗りながらもノリきれない僕はなんというか多分こういう場所に謎の壁を感じてしまっているのだと思う。誰かに話しかけたりできればいいのだと思うのだけれど、話が合う気があまりしない。偏見だとわかってはいる。まあ仲良くならなくてもいいか、別にと弱腰になってそのまま逃げた。元来から人見知りの僕である。何か話しかける大義名分がなくては無理だ。僕はチキンである。実際のところ別に友達を作る必要性はないけれど、旅をする上では克服したほうがいいような気がした。何か狭まる気がする。まあ今回はいいや。
結局、前日に約束した二人も来たのだが、少し話しただけで別れ別れになり、僕は大半の時間を無言に過ごした。なんだか変に疲れたので寝っ転がってライブの音を聞きながら瞑想的にぼーっと過ごした。夜には舞台で演劇やら、映画の上映会やらあったらしいのだが、どこでやってるのかイマイチ分からず、(全く全体像なんて把握できていなかったようだ)寝た。すこぶる寝た。もうなんか何もやる気が出なかった。そんなこんなで3日目は幕を閉じる。
なんだかこんな面白そうなところに来たのに何もしなかった感じだ。まあこういう日もあるだろう。この場所は何となく、今の僕には肌に合わなかった。朝早く出発する。知り合いのカレー屋さんがある奈良へとランチに間に合うようにいかなくてはいけない。洗濯物は乾いていなかったけれどしょうがない。今日の天気は最高だ。
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